比較・選び方
印刷の内製化は月何㎡から得か?外注との損益分岐点を機種別に計算しました【2026年版】
公開:2026年7月14日

看板店が大判プリンターを買う理由は、いつも同じです。「外注に出している印刷を、自社でやりたい」——これに尽きます。趣味で数百万円の機械を買う人はいません。
では、月にいくら外注していれば、機械を買ったほうが得なのでしょうか。この問いに、具体的な数字で答えている記事は、探しても見つかりませんでした。
理由は単純です。プリンター販売店は「まだ買うな」と書けません。印刷通販は「内製化しろ」と書けません。税理士はインク代もヘッド交換費も知りません。誰も、正直に計算できないのです。
そこで、インク・メディア・人件費・保守・ヘッド交換積立・日々のメンテナンス時間まで積み上げて、実際に計算しました。結論から書きます。
印刷の内製化は、月何㎡から得になるのか?
塩ビ+ラミネートを外注6,000円/㎡で出している場合、UJV100-160クラスで月34㎡が損益分岐点です。看板にして数枚分。多くの看板店は、計算上すでに元が取れる物量に達しています。それでも外注を続けるべきケースがあり、本記事ではそれも正直に書きます。
結論:分岐点は月34㎡(塩ビ+ラミの場合)
印刷の内製化は、月何㎡から得になるのか?
塩ビ+ラミネートを外注6,000円/㎡で出している場合、UJV100-160クラスで月34㎡が損益分岐点です。これを超えると内製化のほうが安くなります。
月34㎡。1.5m×2mの看板なら、11枚ほどです。
正直に言えば、これは低い数字です。日常的に看板を作っている会社なら、多くがすでに超えています。つまり——計算上、ほとんどの看板店は、もう元が取れているのです。
では、なぜ多くの会社が外注を続けているのでしょうか。答えは記事の後半に書きます。まずは数字を見てください。
何を計算に入れたか(すべて公開します)
この手の試算は、何を入れて何を外したかで結論が変わります。都合よく項目を落とせば、いくらでも内製化を有利に見せられます。ですから、全部書きます。
外注単価(円/㎡・税別)
外注単価の想定
| 素材 | ネット低価格型 | 一般的な外注(本記事の前提) | 地域業者・品質重視 |
|---|---|---|---|
| 塩ビシート+UVラミネート | 4,500円 | 6,000円 | 7,000円 |
| ターポリン | 3,500円 | 5,000円 | 6,000円 |
| FFシート | 7,000円 | 8,500円 | 10,000円 |
ネット最安店ではなく、一般的な看板製作会社・出力会社へ通常発注した場合の水準を採用しています。完全データ入稿・通常納期・税別・送料別。
ここは重要です。ネット専門店の最安値(塩ビ+ラミで3,600円台の例もあります)を基準にすれば、内製化はまったく割に合わなくなります。逆に高い単価を置けば、内製化を不当に有利に見せられます。本記事では中間の「一般的な外注」を前提にしました。
内製の変動費(1㎡を刷るたびにかかる費用)
変動費の内訳(塩ビ+ラミ・溶剤インクの場合)
| 項目 | 単価 | 備考 |
|---|---|---|
| インク | 600円/㎡ | クリーニング・ノズルチェック・廃インク込み |
| メディア(塩ビ+ラミ) | 1,000円/㎡ | ネット相場ベース |
| 材料ロス 15% | +150円/㎡ | ロール幅と印刷サイズが合わないことによるロス |
| 人件費(12分/㎡) | 600円/㎡ | 社内製造時間単価 3,000円/時 × 12分 |
| 刷り直し・不良 8% | +188円/㎡ | 色が合わない・キズ・カットズレ |
| 合計 | 2,538円/㎡ | — |
人件費の3,000円/時は支払時給ではありません。法定福利費・賞与・有給・教育時間・機械調整・管理工数を含めた「社内製造時間単価」です。アルバイト時給で計算すると、内製コストが不当に安く出ます。
★刷り直し8%を入れない試算は、信じないでください
色が合わない、メディアが浮く、キズが入る、カットがズレる——現場では必ず起きます。この8%をゼロで計算した試算は、実務を知らない人が書いています。
機械の固定費(刷っても刷らなくてもかかる費用)
ここが、多くの試算で抜け落ちる部分です。プリンター本体のリース料だけを見て「月4万円なら安い」と判断するのは危険です。
機械の月額固定費(UJV100-160の場合)
| 項目 | 月額 | 内訳 |
|---|---|---|
| リース料 | 42,300円 | 税込・料率1.9%・60回 |
| 周辺機器の償却 | 13,333円 | ラミネーター・RIP・設置費 80万円 ÷ 60ヶ月 |
| 保守費用 | 25,000円 | 年間30万円 ÷ 12 |
| ヘッド交換積立 | 15,000円 | 数年に一度、数十万円が飛ぶための備え |
| 日次メンテナンス人件費 | 16,000円 | ★週5日 × 15分 × 3,000円/時 |
| 合計 | 111,633円/月 | — |
プリンター単体では仕事になりません。ラミネーターとRIPを無視した試算は成立しません。
★日次メンテナンス人件費は、固定費です
溶剤プリンターは、刷らなくても毎日ノズルチェックとクリーニングが必要です。放置すればヘッドが詰まります。つまり、月に1枚しか刷らない月でも、この時間はかかります。これを「変動費」に混ぜてしまうと、物量が少ない会社の内製コストが過小評価されます。
リース料42,300円だけを見ていた人にとって、実際の固定費が111,633円——2.6倍——であることは、おそらく想定外でしょう。ここを直視することが、正しい判断の出発点です。
物量別:いくら得か、いくら損か
UJV100-160・塩ビ+ラミ・外注6,000円/㎡の前提で、月間の物量ごとに計算しました。
月間物量別の比較(UJV100-160・塩ビ+ラミ・外注6,000円/㎡)
| 月間㎡ | 外注 | 内製 | 差額 | 判定 |
|---|---|---|---|---|
| 10㎡ | 60,000円 | 139,013円 | −79,013円 | 外注が有利 |
| 20㎡ | 120,000円 | 166,393円 | −46,393円 | 外注が有利 |
| 30㎡ | 180,000円 | 193,773円 | −13,773円 | 条件次第 |
| 40㎡ | 240,000円 | 221,153円 | +18,847円 | 条件次第 |
| 50㎡ | 300,000円 | 248,533円 | +51,467円 | 内製が有利 |
| 60㎡ | 360,000円 | 275,913円 | +84,087円 | 内製が有利 |
| 80㎡ | 480,000円 | 330,673円 | +149,327円 | 内製が有利 |
| 100㎡ | 600,000円 | 385,433円 | +214,567円 | 内製が有利 |
| 150㎡ | 900,000円 | 522,333円 | +377,667円 | 内製が有利 |
| 200㎡ | 1,200,000円 | 659,233円 | +540,767円 | 内製が有利 |
| 300㎡ | 1,800,000円 | 933,033円 | +866,967円 | 内製が有利 |
差額がプラスなら内製が安く、マイナスなら外注が安いという意味です。差が15%以内の範囲は「条件次第」としています。
月20㎡しか出していない場合はどうなるか?
外注のほうが月46,393円安く上がります。この物量では、内製化をおすすめしません。機械を買う理由は、コスト以外に探す必要があります。
月100㎡なら、年間約257万円の差になります
月214,567円 × 12ヶ月 = 年間約2,574,804円。リース60回(5年)で見れば、約12,874,020円の差です。これがUJV100-160を1台導入した場合の計算結果です。
【機種別】損益分岐点はこう変わります
機械が高くなれば、当然ながら分岐点は上がります。「高い機械を買えば儲かる」わけではありません。自社の物量に合った機械を選ぶことが、すべてです。
機種別の損益分岐点(塩ビ+ラミ・外注6,000円/㎡)
| 機種 | 月額固定費 | 損益分岐点 |
|---|---|---|
| CJV200-160 | 104,700円 | 月32㎡ |
| UJV100-160 | 111,633円 | 月34㎡ |
| UJV200-160 | 115,933円 | 月36㎡ |
| UCJV300-75 | 117,800円 | 月36㎡ |
| JV400-160LX | 121,633円 | 月37㎡ |
| UJV55-320 | 234,100円 | 月72㎡ |
| JFX200-1213 EX | 288,200円 | 月88㎡ |
| JFX600-2513 | 780,700円 | 月239㎡ |
月額固定費には、リース料・周辺機器の償却・保守・ヘッド交換積立・日次メンテナンス人件費をすべて含みます。
JFX600-2513の分岐点は月239㎡です。これは相当な物量です。「大きい機械のほうが安心」という理由だけで選ぶと、稼働しない機械の固定費が毎月780,700円ずつ出ていくことになります。
外注単価が変われば、分岐点も変わります
外注単価別の損益分岐点(UJV100-160・塩ビ+ラミ)
| 外注単価 | 損益分岐点 |
|---|---|
| 4,500円/㎡(ネット低価格型) | 月63㎡ |
| 5,000円/㎡ | 月49㎡ |
| 6,000円/㎡(一般的な外注) | 月34㎡ |
| 7,000円/㎡(品質重視) | 月26㎡ |
安い外注先を確保できている会社ほど、内製化のハードルは上がります。当然の結果です。
素材によっても分岐点は変わります
ターポリン(外注5,000円/㎡)なら月38㎡、FFシート(外注8,500円/㎡)なら月20㎡が分岐点です。FFは外注単価が高いため、内製化の効果が最も大きく出ます。
それでも、買ってはいけない5つのケース
ここまで読んで、「うちは月100㎡は出している。買ったほうがいい」と思った方が多いはずです。数字はそう言っています。
しかし、機械の導入で失敗する会社は、金額の計算を間違えたのではありません。金額以外を計算しなかったのです。
以下の5つに心当たりがあるなら、内製化はまだ早い可能性があります。正直に自問してください。
①「刷る人」が決まっていない
月100㎡は、作業時間にして月20時間です。月300㎡なら月60時間——ほぼ専任が1人必要です。誰がやるのでしょうか。
「営業の合間に社長が」「手が空いた職人が」——これで回った会社を、私たちはあまり見たことがありません。刷る人が決まっていない導入は、機械が置物になります。
② 色を合わせる工数を見ていない
外注に出せば、色は出力会社が合わせてくれます。内製化するということは、その責任を自社で引き受けるということです。
プロファイル調整、メディアごとの設定、季節や湿度による変動——最初の数ヶ月は、確実に苦戦します。本記事の試算では刷り直し8%を見ていますが、立ち上げ期はこれをはるかに超えます。
③ その物量が、5年続く保証がない
リースは原則として途中で降りられません。解約するには残リース料相当額を一括で支払うことになります。
「今年は大口案件があったから月200㎡出た」——それは来年も続きますか。特定の元請けに依存している場合、その取引が切れた瞬間、固定費だけが残ります。
④ ヘッドが飛んだときのキャッシュがない
プリントヘッドは消耗品です。数年に一度、数十万円の交換が発生します。本記事では月15,000円の積立を見込んでいますが、これは「積み立てておけば大丈夫」という意味ではなく、「積み立てていないと、ある日突然キャッシュが飛ぶ」という意味です。
しかも、故障は繁忙期に起こります。機械が止まっている間の仕事は、結局どこかに外注することになります。
⑤ 設置場所・電源・換気が確保できていない
3.2m機なら、搬入経路も含めて相当なスペースが要ります。溶剤機なら換気も必要です。電源容量が足りず、工事が発生することもあります。
「置ければ何とかなる」ではありません。作業導線が悪いと、それだけで1枚あたりの工数が跳ね上がります。
3つ以上に不安があるなら、まだ外注を続けてください
計算上は内製化が有利でも、これらが解決していなければ、機械は稼働しません。稼働しない機械の固定費は、毎月約11万円です(UJV100-160なら111,633円)。焦って導入するより、外注で回しながら体制を整えるほうが、確実に安く上がります。
「全部内製」か「全部外注」かではありません
内製と外注は、併用できるのか?
できます。むしろ、それが現実的です。標準的な塩ビ+ラミは内製し、FFやターポリンの大型物件、繁忙期のあふれ分だけ外注する——この運用が最も安定します。
内製化を「機械を買って、全部自社でやる」と考えるから、判断が重くなります。実際には、こういう段階の踏み方があります。
- まず外注で回しながら、月間の物量を正確に記録する(3〜6ヶ月)
- 分岐点を安定して超えていることを確認してから、機種を選定する
- 導入後も、繁忙期のあふれ分・特殊素材・大型物件は外注を残す
- 機械の稼働率が上がってきたら、外注比率を下げていく
機械を持っている会社が外注を使うのは、負けではありません。稼働率100%を目指して繁忙期に納期を落とすほうが、よほど損失が大きいからです。
自社の数字で計算してみてください
本記事の数字は、あくまで一般的な前提での試算です。御社の外注単価・物量・素材構成を入れれば、結果は変わります。
外注費と月間の物量、検討中の機種を入力するだけで、内製と外注のどちらが得かを計算できるシミュレーターを用意しました。少ない物量を入れれば、はっきり「外注が有利」と出ます。数字を盛るためのツールではありません。
分岐点の低い機種から検討する
初めての1台なら、分岐点の低い機種から検討するのが定石です。物量が増えてから上位機に移行しても遅くありません。
出典・参考
- ミマキ FAQ:1m²プリントのインク消費量 https://japan.mimaki.com/support/faq/specification/entry-57641.html
- マイナビ アルバイト・パート平均時給レポート(2026年3月度) https://career-research.mynavi.jp/
- 機種価格・リース月額はミマキエンジニアリング公式サイト掲載の標準価格を基にした目安(2026年7月確認時点)
※ 本記事の試算は概算です。実際の金額は、機種構成・保守契約・外注先の条件・作業体制により変動します。※ 設置工事費・換気設備・作業スペースの家賃相当分・オペレーターの習熟期間中の損失は含んでいません。
よくある質問
印刷の内製化は、月何㎡から得になりますか?
塩ビ+ラミネートを外注6,000円/㎡で出している場合、UJV100-160クラスで月34㎡が損益分岐点です。ターポリンなら月38㎡、FFシートなら月20㎡が目安になります。機種が高額になるほど分岐点は上がり、JFX600-2513では月239㎡が必要です。
リース月額が42,300円なら、月5万円分外注していれば元が取れますか?
取れません。リース料以外に、周辺機器の償却・保守費用・ヘッド交換積立・日次メンテナンスの人件費がかかります。UJV100-160の実際の月額固定費は約111,633円で、リース料の約2.6倍です。この固定費に加えて、インク・メディア・人件費といった変動費もかかります。
外注のほうが安いのは、どういう場合ですか?
月間の物量が少ない場合です。UJV100-160・塩ビ+ラミ・外注6,000円/㎡の前提なら、月20㎡以下では外注のほうが月46,393円ほど安く上がります。また、ネット低価格型の外注先(4,500円/㎡)を確保できている場合、分岐点は月63㎡まで上がります。
計算に人件費を入れる必要はありますか?
必ず入れてください。印刷・ラミネート・カットには人が張り付きます。塩ビ+ラミで12分/㎡、月100㎡なら月20時間の作業です。人件費をゼロで計算した試算は、内製化を不当に有利に見せます。なお時間単価は支払時給ではなく、法定福利費や間接工数を含めた社内製造時間単価(本記事では3,000円/時)で置くべきです。
刷らない日もメンテナンスは必要ですか?
溶剤プリンターの場合、必要です。ノズルチェックとクリーニングを怠るとヘッドが詰まります。週5日・1日15分として月約5.4時間、金額にして月16,000円程度の固定人件費が発生します。これは物量に関係なくかかるため、印刷量が少ない会社ほど負担が重くなります。
内製化したら、外注は一切使わないほうがいいですか?
そんなことはありません。繁忙期のあふれ分、特殊素材、自社機で対応できない大型物件は外注に出すのが合理的です。稼働率100%を目指して納期を落とすほうが、損失は大きくなります。標準品を内製し、例外を外注する——この併用が最も安定します。
この試算に含まれていないコストはありますか?
あります。設置工事費(電源工事・搬入費)、換気設備、作業スペースの家賃相当分、オペレーターの習熟期間中の損失、立ち上げ期の刷り直し(8%を大きく超えます)は含んでいません。導入初年度は、この試算より不利になると考えてください。
内製化すると、外注していたときより儲かりますか?
コストは下がりますが、売上が増えるとは限りません。増えるのは「印刷を自社で完結できることによる短納期対応」「小ロット・急な差し替えへの対応力」といった営業上の強みです。これらを活かせるかどうかは、機械ではなく体制の問題です。
このサイトの運営について
看板資材のネット通販で支持される「サインシティ」を運営する株式会社トレード。2001年のネット草創期からEC運営を続けてきた先駆企業であり、全国50拠点以上をもつ上場企業グリーンクロスグループの一員です。プリンター本体だけでなく、印刷メディアやラミネートなどの資材まで自社で扱う“材料商社”だからこそ、トータルでお求めやすい価格をご提案できます。相見積もり、歓迎です。
- ・2001年(ネット草創期)から自社ECサイト「サインシティ」を運営
- ・株式会社トレードは1990年設立
- ・全国50拠点以上をもつ上場企業グリーンクロスグループ(証券コード272A)の一員






